タクシー運転手に転職した元塾講師さん

タクシーに乗る楽しみのひとつが「運転手さんとの他愛のない会話」なのですが、会話の流れで、タクシーの運転手として働く前にどのようなお仕事をされていたのかという話題が出てくることもあります。

先日は、前職が塾講師だったというタクシーの運転手さんに出会いました。

「塾講師からタクシー運転手へとなぜ転職を決断したのか」など、いくつか伺った内容を(本人の了承を得たうえで)今回は書きたいと思います。

【異業種転職】タクシー運転手に転職した元塾講師さんに話を聞いてきた
どうしてタクシー運転手に転職したのですか?

タクシー運転手に転職した元塾講師さんに話を聞いてきた

40代前半ぐらいと思われる運転手さんは、口調が穏やかで話し方もロジカルな方。

よくよく話を聞いたら、以前は塾の先生をしていたのだとか……。

Q.以前はどのようなお仕事をされていたのですか?

A.塾講師です。塾講師といってもいろいろありますね。例えば大きな教室に生徒を集めて授業をする形態もあれば個別指導塾の形態もあります。それから正社員としての採用と授業1コマやっていくらという雇用形態の違いもあります。

私の場合は、個別指導塾で1コマやっていくらという雇用形態で働いていました。

Q.塾の先生ってお給料いいんじゃないですか?

A.悪くはなかったですね。若い頃は同年代の平均年収は越えていたと思います。

個別指導の塾ですから、大手予備校の超有名講師のようには稼げませんけどね。テレビに出演されているような先生は、かなりの高給でしょうが、やっぱり一握り。

ただ、お給料は悪くないといっても、代わりにお正月(入試直前期)やお盆(夏期講習中)などの繁忙期にはほとんどお休みがとれません。最高60連勤(約2か月間休みなし)なんてこともありました。若いからできたのでしょう。

Q.転職するきっかけを教えてください

A.私の場合、学生時代からアルバイトで個別指導塾の講師をしていました。大学卒業時は何も考えていなかったし、ちょうど就職も大変な時期。で、そのまま個別指導塾の講師をつづけていたら、上からお声がかかって。待遇をよくするからもう少しいてくれないかと。それでダラダラと続けていた感じですね。

30歳を超えたあたりで、一度悩んだんですがね。さっきも言った通り待遇が割とよかった(笑)。その時は何も問題がなかったのです。

ただ、35歳を間近にすると、先が見えなくなるのです。このまま年を重ねていったとき、同じことをしているのはどうかと。春先には暇で入試のある冬にかけて段々と忙しくなってくる生活も、段々と苦痛になってくるのです。

もちろん、お給料は毎年少しずつ上がるのですが、自分自身がキャリアアップしている実感がわかないんです。自分自身が何も積み重ねてこなかったのではないかという恐怖心にも囚(とら)われました。

かといって、転職をしようとした際には正社員としての勤務経験がないわけですから「職歴なし」となるわけです。「フリーランス」と言えば聞こえはいいかもしれないけど、実質アルバイトなのですね。

学生時代に行政書士の資格を取得していたものの、独立開業できるかといったら現実的ではない。国民金融公庫からお金を借りて、塾を開業する勇気もない。勤めていた塾から管理部門での正社員で働かないかというお誘いもありましたが、福利厚生面を考えても給与がガクンと下がるうえ、やはり塾業界は少子化で先細りしていくだろうと肌で感じていたのでお断りしました。

40歳を前にして辞めて、しばらく体を休めた後、この仕事に就きました。

Q.他に転職する業界の候補はありましたか?

A.不動産業界ですね。資格を取得することができますし、将来、独立もできるかもしれない。少子高齢化もあまり関係なく、食いっぱぐれる心配もなさそうだと。でも教育業界と同様に若いうちはいいけど、年をとったら大変だという業界だと聞いたので、こちらにしました。

Q.タクシー業界の魅力は何ですか?

A.最終的に個人タクシーというキャリアプランがある点は魅力的です。最近では、車の燃費がかなり向上しているので、燃費のよい車種に乗れば、利益も大きく出るのだとか。

法人タクシーでも、工夫次第で売上を伸ばすことが可能です。面白いですよ。今は情報が早いですからね。例えば「電車が止まっている」「〇〇でイベントがある」なんていう情報がわかれば、そこへ行けばいい。頑張れば自分の給与にも反映される。

法人タクシーは、福利厚生がきちんとしている点もよいですね。ウチの場合は、住宅補助や賞与、社会保険関係が相当手厚いので、手取りの給与額は下がりましたが、長い目で見ると悪くないと思います。

以前の仕事では、確定申告やら社会保険の手続きやら全部自分でやらなければならなくて、意外と面倒だったのです。そういった各種手続きから解放されたのも大きいですよ。

あと以前の仕事に比べて、時間的な余裕ができましたね。四季を感じることもできるようななりました(笑)。



Q.塾の先生とタクシーの運転手、同じサービス業ですがやっぱり違いますか?

A.全く違いますね。客層が全然違います。それから接客方法。

塾講師をしていた時に、私が相手をしていたのは10代の子供たちです。子供たちは「先生、先生」と慕ってくれる。また、親との面談があるといっても、やはり「先生、先生」と持ち上げられていた部分がありました。

一方、今、私がお客さんとしている層は社会人の方がほとんどです。普段、営業している場所柄、きちんとされている方が多いのです。

自分で言うのもおかしい話ですが、学生時代から塾講師として働いてきて、そのまま塾業界にどっぷりとつかってしまって、社会人としての最低限のマナーを学んでこなかった気がするのです。新卒のマナー研修すらありませんでした。子供たちを相手にして天狗になっていた部分は少なからずあると思います。

ですから、タクシー業界に転職してからマナー本を何冊か読みましたね。マナー本を読んで、自分の無知さを恥ずかしく思いました。社会人の基本を何も知らなかったと。

と、こんな感じで教えてくれました。

余談ですが、最後に「塾業界で講師として60歳まで勤めあげる人はいないんじゃないかな」と言っていたのがとても印象的でした。

・参考:【異業種転職】タクシー運転手に転職した元スーパーのアルバイト店員さんに話を聞いてきた

・参考:【異業種転職】タクシー運転手に転職した元美容師さんに話を聞いてきた

・参考:【年収】東京都内で働く個人タクシーの運転手さんに独立起業のメリットやデメリット・働き方を聞いてきた


以上、タクシー運転手に転職した元塾講師さんと話をしてきた内容でした。タクシー業界に転職を考えているみなさんの参考になれば幸いです。

<文責/M>

関連記事

【ドラッカー】代々木ゼミナールに学ぶ事業転地(業態転換)の重要性
【離職率が高い?】就職・転職活動をする前に知っておきたい「塾・予備校」業界の基礎知識
【個別指導塾】授業の準備時間に給与は出ない?「明光義塾」が労働基準監督署から受けた是正勧告の内容とは?
このエントリーをはてなブックマークに追加